ブレイクバルク海運と戦略

ブレイクバルクの輸送は、採算性を考えなければ、基本的にどんな船でも輸送可能なので、参入障壁が非常に低く、常に激しい競争下にあります。したがって、ここで生き残るためには、他社に勝る戦略が必要になります。

とは言え、経営自体は非常に単純です。できるだけ安い船を用意して、高い運賃の貨物を沢山集め、賢く運航すれば多くの利益を得ることができます。つまり、やるべき事は、船の調達、集荷、運航の3つをバランスよく実施するだけです。これを式で表せば、CB (Charter Base) マイナス CH (Charter Hire) イコール PL (Profit and Loss) となります。
 

そこで、経営者の唯一無二の仕事は、この3つの仕事の中で他社を出し抜くような仕組み、つまり戦略を考えることです。端的に言えば、CBを上げる仕組みとCHを下げる仕組みを工夫することです。

CBを上げる要素は、まず、何処から何処まで輸送を行うのかを考えることです。提供するのは輸送サービスなので、チャンスがありそうな輸送区間を見つけなければ、話が始まりません。次は、 何を輸送するのかを考えることです。ブレイクバルクと言っても、鉄の様なウエイト勝ちの貨物 (容積よりも重量が大きく、重量によって運賃が課金される貨物)、車輌の様なメジャー勝ちの貨物 (重量よりも容積が大きく、容積によって運賃が課金される貨物)があり、輸送する貨物によって荷役方法や適した船が違います。故に、何を輸送するのかを決めることは、大切な要素になります。最後は、どの様に輸送するのかを考えることです。例えば、一度に大量に輸送するのか、それとも多頻度で少量輸送するのか、だけを考えても適した船が変わるので、これも重要な要素になります。

一方、CHを下げる要素は、当たり前ですが本船の調達価格です。しかし、仕入れの時期を判断するのは難しいので、社船と傭船のポートフォリオを考え、常に市場の動向を観察し、運航船を入れ替え、用船料を抑える工夫が必要です。また、社船の場合、資金調達と減価償却をどのように行うか、さらに、調達した船の維持管理を賢く行うことも大切な要素になります。

これらの各要素でベストプラクティスを追求することは、当然大切なことですが、それらは戦略ではありません。戦略は、ある要素の中の何かに工夫を加えることで、それが他の要素に変化をもたらし、その変化が波紋のように広がって、利益を導き出すストーリーです。つまり、各要素に散在するパズルのピースが繋ぎ合わされて、独自の絵が完成されるようなイメージです。

例えば、ある海域で輸送の需要が高まっているとします。そこに本船を投入するのは、戦略とは言えません。他社も本船を投入して来たらゲームオーバーとなるからです。しかし、往航の輸送を成約すると同時に、その揚げ港が積み出し港となる別の貨物を成約することは、戦略と言えます。なぜならば、他社が参入し往航の運賃に値下げ圧力が加わったとしても、自社には復航の貨物があるので、他社よりも競争優位を保てるからです。この例は、余りにも単純なので戦略的には陳腐ですが、戦略をご理解頂くには良い例だと思います。
 
貴方が、もし、ブレイクバルク輸送を行う会社で、戦略を考える立場にあるなら、ぜひ、スケールの大きい、大戦略を考えてみて下さい。​もちろん、それぞれの分野の知識がないと厳しいとは思いますが。​

戦略は、常に、そのストーリーが複雑であればあるほど、他社に気付かれず、また気づかれたとしても模倣が難しいので、秀逸であると言えます。